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大阪高等裁判所 平成8年(ネ)2973号 判決 1997年8月06日

東京都中央区<以下省略>

平成八年(ネ)第二九七三号事件控訴人兼

平成八年(ネ)第三〇七四号事件被控訴人(以下「一審被告」という。)

野村證券株式会社

右代表者代表取締役

右訴訟代理人弁護士

辰野久夫

右訴訟復代理人弁護士

尾崎雅俊

藤井司

木下慎也

大阪市<以下省略>

平成八年(ネ)第二九七三号事件被控訴人兼

平成八年(ネ)第三〇七四号事件控訴人(以下「一審原告」という。)

右訴訟代理人弁護士

細川喜信

的場智子

主文

一  一審被告の控訴を棄却する。

二  一審原告の控訴に基づき、原判決一項を次のとおり変更する。

一審被告は、一審原告に対し、金七六四万〇四九〇円及び内金六九四万〇四九〇円に対する平成六年七月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  訴訟費用は、第一、二審を通じてこれを五分し、その三を一審原告の負担とし、その余を一審被告の負担とする。

四  この判決は、二項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一申立て

一  平成八年(ネ)第二九七三号事件

1  一審被告の控訴の趣旨

(一) 原判決中一審被告敗訴部分を取り消す。

(二) 右取消部分に係る一審原告の請求を棄却する。

(三) 訴訟費用は、第一、二審を通じて一審原告の負担とする。

2  一審原告の一審被告の控訴の趣旨に対する答弁

(一) 一審被告の控訴を棄却する。

(二) 控訴費用は一審被告の負担とする。

二  平成八年(ネ)第三〇七四号事件

1  一審原告の控訴の趣旨

(一) 原判決を次のとおり変更する。

一審被告は、一審原告に対し、一九〇八万一二二五円及び内金一七三五万一二二五円に対する平成二年七月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

(二) 訴訟費用は、第一、二審を通じて一審被告の負担とする。

2  一審被告の一審原告の控訴の趣旨に対する答弁

(一) 一審原告の控訴を棄却する。

(二) 控訴費用は一審原告の負担とする。

第二事案の概要

事案の概要は、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決事実及び理由欄「第二 事案の概要」(原判決三頁三行目から二二頁三行目まで)記載のとおりであるから、ここに引用する。

一  文中「原告」とあるを「一審原告」と、「被告」とあるを「一審被告」と各訂正する。

二  六頁一〇行目「全くなかった。」の次に「一般の週刊誌にワラントについての記事が掲載されるようになったのは、平成三年以降であり、一審原告は、経済関係の雑誌や新聞を購読したこともなかった。」を、八頁七行目「B」の次に「課長」を各付加する。

三  一二頁三行目から四行目にかけて「仕切り拒否である。」とあるを「、仕切り拒否をしたものといえる。一審原告が本件ワラントを売却しないで保有し続けることになったのは、Bが一審原告に対し責任をもって何とかするので売却を待つようにと申し入れたからであり、このことからC及びBに仕切り拒否があったことは明らかである。」と訂正する。

四  一三頁四行目と五行目の間に次のとおり付加する。

「5 過失相殺の割合

一審原告の属性、一審被告が仕切り拒否をしなければ一審原告の損害は約一五〇万円で済んでいたことを考え併せると、仮に、一審原告にも過失があるとしてもその割合は一割程度とするのが相当である。」

五  一四頁七行目「経験もあった」の次に「(右三社以外の証券会社とも取引があったことを強く推認させる事情もある。)」を付加する。

六  一四頁一〇行目「リスクが伴うことも十分に認識していた。」とあるを次のとおり訂正する。

「リスクが伴い、かつ、営業担当者の勧誘を鵜呑みにしてはならず、自らの判断で投資すべきであることも十分認識していた。すなわち、一審原告は、素人の投資家ではなく、きわめて積極的かつ貪欲な投資家である。また、平成二年七月当時、外貨建てのワラントの発行が開始された昭和六一年一月から既に約四年六月が経過しており、ワラントは目新しい金融商品ではなく、株価が急落してワラントも紙屑になるのではないかという記事が週間誌上に掲載されていたころであるから、以上のような属性の一審原告は、ワラントの商品性についての知識を有していたということができる。」。

七  一九頁六行目末尾の次に以下のとおり付加する。

「一審原告は、後記のとおり、本件ワラントにつき平成二年七月末ころには約一五〇万円の損失が生じていることを知らされながら、同年八月三日、同月二三日、同年一〇月一日に一審被告を通じて各株式を買い付けているが、Cが本件取引の勧誘に当たり断定的判断を提供していないからこそ、一審原告は、一審被告との間で本件取引につきトラブルを発生させることなく、右各株式取引に及んだものというべきである。」

八  二一頁末行を次のとおり訂正する。

「6 損害の範囲について

また、仮に、Cに前記のとおりの違法な勧誘行為があったとしても、本件ワラントにつき、本件取引から約一〇日後の平成二年七月末には約一五〇万円の評価損が発生しており、この時点でCの「一〇日間で一〇〇万円儲かる。」との発言が実際とは食い違っていることが判明したにもかかわらず、一審原告は本件ワラントを自己の判断で保有し続けたのであるから、この時点以降の損害は、Cの勧誘行為とは相当因果関係がないというべきである。したがって、一審原告の損害は最大限一五〇万円にとどまるというべきである。

四 争点」

九  二二頁一行目から三行目までを次のとおり訂正する。

「1 C又はBの違法行為の有無(取引勧誘行為、仕切り拒否)

2 仮に、C又はBに違法行為があるとした場合、右違法行為と本件ワラントの買付及び損失との間の相当因果関係の有無

3 損害の範囲

4 過失相殺の割合」

第三証拠

証拠関係は、原審及び当審における証拠関係目録記載のとおりであるから、ここに引用する。

第四当裁判所の判断

一  当裁判所は、一審原告の一審被告に対する請求は、七六四万〇四九〇円及び内金六九四万〇四九〇円に対する平成六年七月一三日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余は理由がないと判断する。その理由は、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決事実及び理由欄「第三 当裁判所の判断」(原判決二二頁五行目から四〇頁三行目まで)記載のとおりであるから、ここに引用する。

1  文中「原告」とあるを「一審原告」と、「被告」とあるを「一審被告」と各訂正する。

2  二二頁五行目「甲一四」とあるを「甲一三、一四」と、同末行及び二三頁二行目「不動産取引業」とあるを「宅地建物取引業」と、同八行目「甲一五、甲一九」とあるを「甲一五の1ないし42、甲一九の1ないし3」と各訂正する。

3  二七頁三行目「C」から四行目末尾までを次のとおり訂正する。

「Cは、一審原告に損失を負担させるのは非常に具合が悪いと判断し、上司であったBとともに一審原告を訪問し、もう少し待ってくれれば損を取り返すことができるだろうとの意見を述べるとともに、責任をもって何とか穴埋めさせてもらう旨申し入れた。」

4  二七頁五行目「保有することにした」の次に「(甲一一の一、乙一三)」を付加し、同九行目「できなかった。」とあるを「できなかった(乙七)。Cは、右株式のうち少なくとも北恵の株式は右損失の穴埋めのつもりで勧めたものであるが、右各取引についてはいずれも一審原告の危険負担で行われており、一審被告の負担で特段の便宜が図られたわけではなかった。」と訂正する。

5  二八頁一〇行目と末行の間に次のとおり付加する。

「2 右(一)の認定に対し、一審被告は、平成二年七月当時、外貨建てのワラントの発行が開始された昭和六一年一月から既に約四年六月が経過しており、ワラントは目新しい金融商品ではなく、株価が急落してワラントも紙屑になるのではないかという記事が週刊誌上に掲載されていたころであるから、一審原告は、ワラントの商品性についての知識を有していたということができる旨主張するが、当時ワラントの危険性を指摘した記事が大衆を読者とするいわゆる一般の週刊誌等に掲載されていたことを認めるに足りる証拠はないし(一審被告は乙二七の一ないし四を提出するが、これはいわゆる一般の週刊誌とはいえない。)、一審原告が(乙二七の一ないし四のような)経済関係の雑誌や新聞を購読したことを認めるに足りる証拠もないのであるから、一審被告の右主張は理由がない。」

6  二八頁末行「2 右(二)の認定に対し、」とあるを「次に、右(二)の認定に対し、」と訂正する。

7  三〇頁一〇行目「取引」から同末行「勧誘したこと」までを「取引の危険性については触れずに、一〇日間で一〇〇万円儲かるというような、利益幅の大きさ及びその確実性のみを強調した表現をして勧誘したこと」と訂正する。

8  三一頁六行目を次のとおり訂正する。

「二 C及びBの違法行為の有無、本件ワラントの買付及び損失との間の相当因果関係の有無について(争点(1、2)」

9  三三頁二行目「「本件ワラント」の前に「「必ず儲けてもらう。」」を、同三行目「大きな利益が」の次に「確実に」を、三四頁七行目「その販売する商品について」の次に「「必ず儲けてもらう。」」を、三五頁二行目「Cの、」の次に「必ず儲けてもらう、」を各付加する。

10  三五頁四行目から三六頁四行目までを次のとおり訂正する。

「4 また、前記一認定のとおり、平成二年七月末には、本件ワラントは、約一五〇万円の評価損が発生し、一審原告がCに対し、損失について不満を述べ、何とかして欲しいという趣旨の発言をするとともに、本件ワラントを売却するように指示した際、C及びBは、一審原告に損失を負担させるのは非常に具合が悪いと判断し、一審原告に対し、もう少し待ってくれれば損を取り返すことができるだろうとの意見を述べるとともに、責任をもって何とか穴埋めさせてもらう旨申し入れ、その結果、一審原告に本件ワラントの保有を続けさせ、これが一審原告において権利行使期間まで本件ワラントを保有し続けることにつながったものである。C及びBの右売却しないように勧めた等の行為は、これが直ちに仕切り拒否とまでいえるか否かはともかく、Cの前記勧誘行為の際の発言と相まって一審原告に、本件ワラントを保有し続ける方が望ましいと判断させ、場合によっては一審被告が特別な便宜を図るかその負担で損失の穴埋めをしてくれるのではないかとの期待を抱かせる適切を欠く行為であって、一審原告の損失の拡大に寄与したものであり、Cの右勧誘行為とC、Bの右売却しないように勧めた等の行為は、全体を通じて違法性を帯びるものというべきである。また、CやBには前記違法行為をしたことに少なくとも過失があることは明らかであるから、これらの者の右行為は不法行為に該当するというべきである。

5 したがって、CやBは一審被告の従業員であり、これらの者の右行為は一審被告の事業の執行としてされたことは明らかであるから、一審被告は、民法七一五条一項の使用者責任を免れない。」

11  三六頁五行目「四」とあるを「三」と訂正し、同六行目末尾の次に「(争点3)」を付加する。

12  三六頁九行目と一〇行目の間に次のとおり付加する。

「 この点につき、一審被告は、本件ワラントにつき、本件取引から約一〇日後の平成二年七月末には約一五〇万円の評価損が発生しており、この時点でCの「一〇日間で一〇〇万円儲かる。」との発言が実際とは食い違っていることが判明したにもかかわらず、一審原告は本件ワラントを自己の判断で保有し続けたのであるから、この時点以降の損害は、Cの勧誘行為とは相当因果関係がないというべきであり、したがって、一審原告の損害は最大限一五〇万円にとどまるというべきである旨主張するが、前記二で説示したとおり、Cの右勧誘行為の外、右評価損が発生した時点でC及びBが本件ワラントを売却しないように勧めた等の行為も含めて違法であるというべきであり、右一連の違法行為と本件ワラントの購入代金全額の損害との間に相当因果関係があるというべきである。」

13  三六頁一〇行目末尾の次に「(争点4)」を付加する。

14  三八頁三行目「Cの発言も」から六行目末尾までを次のとおり訂正する。

「Cの発言もいくら証券会社の担当者の発言とはいえ、これを保証し得るものではないのではないかと疑問を抱くべきであったし、また、利益が大きな投資商品はそれだけ大きなリスクを伴うものではないかと思いを致すべきであったというべきである。

また、本件取引から約一〇日後の平成二年七月末には約一五〇万円の評価損が発生し、Cの右発言が実際とは食い違っていることが判明したのであるから、いかに、C及びBから本件ワラントを売却しないように勧められたとしても、同人らの、少し待てば損を取り返すことができる旨の発言も単なる見通しの域を超えておらず、必ずしもそれが的中するとは限らないものであることを容易に認識し得たものであり、また、必要な注意を払えば一審被告において損失の穴埋めをするとはいっても、同社の株式市場に関する情報に基づいて優良銘柄を推奨するといった程度に過ぎず、特別な便宜を図るか(これは、場合によっては違法にもなる。)又はその負担において穴埋めをするまでの意思がないことも容易に認識し得たものというべきである。」

15  三九頁三行目「八割」とあるを「六割」と、同五行目「三四七万〇二四五円」とあるを「六九四万〇四九〇円」と、同八行目「三五万円」とあるを「七〇万円」と各訂正する。

二  以上の次第で、一審原告の本訴請求は、一審被告に対し、七六四万〇四九〇円及び内金六九四万〇四九〇円に対する平成六年七月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるからこれを認容すべきであり、その余は理由がないからこれを棄却すべきである。

よって、一審被告の控訴は理由がないからこれを棄却し、一審原告の控訴に基づき、右結論と異なる原判決一項を右のとおり変更することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条、九二条を、仮執行宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 中田耕三 裁判官 高橋文仲 裁判官 中村也寸志)

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